発達障害を題材にした書籍では、ASD(自閉症スペクトラム)は空気を読めないという書かれ方をしています。
とはいえ、ASDの全員が空気読めないKYではありません。

空気読みすぎて、異常行動してしまうパターンもありますね
ただ、ASDが空気を読めないと言われる理由の一つとして、相手の表情を見ていないというケースが挙げられます。
普通は人の表情を見るでしょう。
しかし、事実としてASDは人の表情ではなく後頭部を見ていたという実験データがあります。
ASDは人の表情を見ない
ASDは人の表情を読めないと言われます。
しかし、そもそも人の表情すら見ていません。
2015年にNeuronジャーナルの10月22日号に掲載された、ASDの注視に関連する実験があります。
その実験で、ASDは人の表情よりも後頭部をよく観察したという結果が出ました。
次の画像をご覧ください。

左右同じ画像ですが、色でマーキングされています。
赤く光っているところほど、よく見られた・注視されたという意味です。
左はASDの方が画像を見て、マーキングされた結果。
右は発達障害ではない方が画像を見て、マーキングされた結果です。

めっちゃ、後頭部見てますやん
このように、ASDは人の表情よりも他のオブジェクト(物体)を注視する傾向があるようです。
しかも、他にもASDの注視機能には特徴があって、画像を交えながら特徴について説明していきます。
ASDはどこを注視しているのか?
一体、ASDはどこを注視しているのでしょうか?
それは、先ほど見せた赤のマーキングでわかります。
ヒートマップといって、注視されたら赤く、少し見た程度であれば青です。
アイ・トラッキングシステムを使用して、ヒートマップを再現しています。

目の動きをシステムで追跡することで、どこを見たのか分かる
実験の対象者
今回の実験の対象者は、ASDの方と発達障害ではない定型発達の方が39名集められました。
- ASD:20人
- 定型発達:19人
なお、年齢やIQ、性別、人種、および教育レベルといった基準は同水準とのこと。
700枚の画像をアイ・トラッキング
今回の実験では、700枚の画像が用意されました。
1枚の画像あたり3秒のペースで、被験者の方に見せていったそうです。
そして、見せられた画像のアイ・トラッキングして、どこを注視していたのか計測されました。
その結果、ASDと定型発達では、特徴に違いが発見されています。
現実世界を意識した画像
なお、用意された画像は、現実世界を意識された日常的な画像です。
日常的に遭遇する可能性がある画像となります。
空想や非現実的な画像は、除外されました。

日常的な画像の方が、リアリティありますよね
その上で、複数のオブジェクトを組み合わせた画像となります。
例えば、人+家具だとか、ビン+果物だとか。
複数のオブジェクトがある中で、どこに焦点が置かれるのかがわかります。

冒頭の画像では、後頭部でしたw
画像注視におけるASDと定型発達の特徴の違い
では、ASDと定型発達の特徴の違いを説明します。
特徴は、次の6つです。
- 中心部を見る
- 人の目線の先を見ていない
- 背景を見ている時間が長い
- 表情を見る速度が遅い
- 一つのモノを凝視する
- モノが多いと全体像を俯瞰できない

結構、当てはまるかも
特徴1.中心部を見る
ASDの画像注視において、最大の特徴と言えるかも知れません。
とにかく、画像の中心部を見ます。
ASDと定型発達の比較画像を出してみましょう。



左がASDで、右が定型発達です。
画像の中心部に、なんにもありません。
しかし、中心をよく見ていることが、わかります。
実験では、ASDはサッカードという眼球運動が遅いという結果が出ています。
そのため、センターポジションから視線を動かすのが遅く、中心部を見る時間が長いという仮設がたっています。
ただし、一部の画像に対するリアクションの速度はASDの方が上です。

面白くない画像に対しては、トロくなるのかな
特徴2.人の目線の先を見ていない
ASDは、人や動物などの目線の先にあるモノを見ません。
例えば、次のような画像です。


両方ともボールを蹴る画像です。
左がASDの画像ですが、キッカーの目線の先があまり見られていません。
つまり、顔の向きや表情をよく見ていないということです。

ASDは人の表情や顔の向きを見ていない
実は、この他人の目線の先を見ないというのは、ASDの特徴です。
共同注意という力が働いていません。
共同注意とは、同じ空間にいる他の人と注意を共感する力。
同じモノに注意を向ける。
危険という感覚を一緒に共感する。
そういった力が、共同注意です。
ASDは共同注意が弱いため、他の人と違うところに注意が向きます。

変なところばかり、気になる
特徴3.背景を見ている割合が多い
ASDは、定型発達に比べ背景を見ている割合が多いそうです。
その分、オブジェクトを見ている時間が少なくなっています。
オブジェクトとは、次のようなもの。
- 表情
- 人が見つめているもの
- 動く物体(車や犬)
- 楽器
- 匂いがする物体(花やコーヒー)
- テキスト
- 触覚が強い物体(ナイフや炎)
- 道具(ポッドやリモコン)
などなど。

赤の棒グラフがASDで、青が定型発達です。
左から1つ目がオブジェクトを見ている割合。
赤のASDの方が、オブジェクトを見ている割合が少ないです。
そして、左から3番目が背景を見ている割合。
赤のASDの方が、背景を見ている割合が大きいです。
特徴4.表情を見る速度が遅い
ASDは、定型発達に比べ、表情を見る速度が遅いです。

赤のバーの方が長いです。
赤のASDは、青の定型発達に比べ、表情を見る速度が遅いということ。

普通は先に表情を見ますよね
ただし、触覚が強い物体(炎や冷たい飲み物)や道具(ハサミやスマホ)を見る速度は、ASDの方が上でした。


今回の実験とは別の実験でも、ASDは興味関心がある物体に対しては、高い注意能力が示されています。

特定の物体に対する視覚認知機能は高い
特徴5.一つのモノを凝視する
ASDは、目移りのスピードが遅いです。
一つづつ、物体を凝視をします。
次の画像は、一つのものを注視している平均時間です。

いわば、凝視時間。
バーが長けば長いほど、一つのモノを長く見ているということ。
全ての項目で、赤のASDが長く凝視していることがわかります。

じっくり一つの物体を見るのがASDの特徴
反対に、定型発達の方は、一つの物体に対する凝視時間が短くて、その分多くの物体を見ています。
とくに、ASDはテキストに関して、定型発達と比べ長く見てしまうようです。

こちらの画像も左がASDで、右が定型発達です。
テキストに注目してしまい、人の表情への注視が薄れているのがわかります。

人の服に書いてある文字とか、めっちゃ見る
特徴6.モノが多いと全体像を俯瞰できない
ASDは、視界に入るモノが多いと全体像を俯瞰できないようです。
混乱するのか、見れる範囲が極端に狭くなります。



こちらの画像も左がASDで、右が定型発達です。
ASDは、一つのモノを凝視するので、時間内に見れるモノの数は少ないです。
ですが、極端に視野が狭まったように見えます。
ASDは、全体を俯瞰してバランスよく見る能力は低いとされています。

細部にこだわりがち
まとめ
ASDは、人の表情を見るのが遅いようです。
中心部や背景を見ることもあれば、他のものに目移りすることもあるでしょう。
一つ一つじっくり凝視してしまう性質もあります。
そのため、人と見ているポイントが違い、共同注意が弱いです。
ですが、人が見ないポイントに注意が向くというのは、一つの個性だと捉えましょう。
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